【再現答案】令和4年司法試験刑法

1,まえがき

 

略歴等を簡単に載せておきます。

見て頂くとわかる通り、過程においても本番においても、いわゆる中位合格者ということになるのだと思います。

最終的には本番の答案に表現できたものが全て、というのはあるんですが、何らかの目安となれば幸いです。

 

 ⑴ 経歴

 ・中堅(?)私大法学部卒業(2020年3月)

 ・早稲田大学大学院法務研究科 既修者コース修了(2022年3月)

 ⑵ その他

 ・ロースクール入試:中央(半額免除)、早稲田

 ・予備試験:R1、R2、R3いずれも短答落ち

 ・ロースクール成績:席次上位約38~45%を推移

 ・3月TKC模試:総合D、論文E(上位約70%)

 ・司法試験:短答200位台、論文700位台、総合600位台

 

2,再現答案

 作成:2022年5月下旬

 評価:A

 

令和4年刑事系司法試験第1問

第1, 設問1

 1, ⑴の主張の当否

 ⑴ 横領罪(刑法252条1項)は、「自己の占有する」「他人の物」を「横領」する行為に成立する。甲はAから依頼されて本件バイクを自宅のガレージで預かり、これに対する「占有」を及ぼしているから、本件バイクが「他人の物」にあたる場合には、これを「横領」する行為に横領罪が成立する。

 ⑵ ⑴の主張に対しては、本件バイクはAが所有者であるBに無断で持ち去った物であって盗品にあたり、Aが本件バイクについて民事法上正当な権限を有する者ではない以上、Aに財産的損害が生じていないとして、甲に財産犯である横領罪が成立する余地はないとの反論が考えらえる。もっとも、刑法における財産罪の保護法益は、静的な財産秩序の維持にあるから、委託者が受託者に預けた物について正当な権限を有していなかったとしても、当該物は横領罪の客体とすべきである。現実の財産状態を保護することで自救行為によって生じる弊害が防止できるし、財物の真の権利者の保護については、民事訴訟等の手段によって代替できるからである。したがって、盗品である本件バイクであっても「他人の物」として、横領罪の客体とすべきであるから、甲が本件バイクを「横領」した場合、当該行為には横領罪が成立する。

 2, ⑵の主張の当否

 ⑴ 「横領した」とは、占有する物についての不法領得の意思の発現行為をいう。横領罪における不法領得の意思は、委託の趣旨に背いてその物の所有者でなければできないような処分をする行為をいう。⑵の主張は、甲が本件バイクを隠した行為が、本件バイクの所有者でなければできないような処分であって不法領得の意思の発現にあたる行為であるとするものである。しかし、横領罪の領得罪としての性質に鑑みると、不法領得の意思にあたって要求される処分意思は、行為者が当該委託物から何らかの効用得ることについてまで意図していることが必要であると解すべきであるから、そのような意図なしに行った行為については、不法領得の意思が認められず、「横領した」とはいえない。

  甲は、本件バイクを預かっている期間に些細なことからAと言い争いになり、専らAに嫌がらせする意図で本件バイクを隠匿しており、隠匿した後にどのように処分するかなどについては何ら検討しないまま行為に及んでいるから、本件バイクという物の効用を何らかの形で享受する意思を有していなかったといえる。したがって甲には不法領得の発現行為があったといえず、甲の行為は「横領した」場合にあたらない。よって甲には同罪が成立しない。

第2、 設問2

 1、 Aの右上腕部に本件ナイフを突き刺した行為

 ⑴ 乙は上記の有形力行使によってAの右腕部に加療3週間の傷害を生じさせている。かかる行為は人の身体機能に傷害を加えるものとして、傷害罪(204条)の客観的構成要件を充足する。

 ⑵ 乙は⑴の自身の犯罪事実につき認識、認容しているから、傷害罪の故意(38条1項)が認められる。

 ⑶ 正当防衛(36条1項)の成否

 乙は、甲の生命、身体という「他人の権利」を防衛するために上記傷害行為に及んでいるから、正当防衛として違法性が阻却されないか。

 正当防衛において要求される「急迫不正の侵害」とは、防衛対象に対する法益侵害結果が現に生じている場合又は侵害の危険が間近に差し迫っていることをいう。36条1項の趣旨は国家権力による救済を待っていたのでは十分な法益の維持、回復を図ることが困難であることから、自力救済禁止の原則に対する例外を認める点にある。したがって、法益に対する侵害が生じるおそれを当該法益主体が認識していた場合に、侵害行為者から侵害行為を受ける可能性についての予見の程度、予見された侵害場所に出向く必要性、相手方からの侵害に乗じて積極的に相手方に加害することを意図していたか否かなどの事情を総合的に考慮し、同項の上記趣旨から反撃に出ることが妥当でないと解される場合については、侵害の「急迫」性を否定し、正当防衛の成立を否定すべきである。

 本件において、Aの暴行の対象である甲は、自身がAから預かっていた本件バイクについて「あのバイクはここにはないよ。ざまあみろ。」などとAに伝え、本件バイクを委託していたAを挑発するような態度をとっている。甲は、Aが高校時代から短気で粗暴な性格をしており、怒りに任せて他人に暴力をふるうことが数回あったこと知っており、上記のようにAの怒りを買った場合、Aが自身に暴行を加えてくる可能性が相当程度あることについて認識、予期していたにもかかわらず、自身も頭に血が上っていたことから、本件包丁という凶器を携帯してAに危害を加える意図で現場に向かっている。また、Aと上記のやり取りを交わしたのは電話越しであって、Aから指定されたC公園とは場所的離隔があり、甲がC公園に出向く前に警察に通報するなどの手段をとることなく、予期された侵害現場に出向く必要性は高くなかったといえる。これらの事情を踏まえると、甲には緊急状況における自力救済禁止の例外として反撃行為が正当化される「急迫不正」の侵害があったとはいえない。よって、乙の行為は正当防衛によって違法性が阻却されない。

 ⑷ 誤想防衛の成否

  乙は、甲A間の上記の経緯を認識していなかったゆえに、甲の生命身体に対する危険についての急迫性が認められないことを認識しえないまま上記行為に及んでいる。したがって乙の主観においては、甲の生命身体に対する侵害の危険が現に生じているものとして、「急迫不正の侵害」が認められる。こうした違法性阻却事由が存在するとの認識で行為に及んだ者については、行為についての反対動機が形成できない以上、故意責任を否定すべきである。そこで、乙の主観において、乙の行為は急迫性要件以外の正当防衛の他の要件を充足したものであったか否かについて検討する。

 乙は、上述の通りAによる暴行から甲を守るために上記行為に及んでいるから、防衛の意思で行為に及んだものといえる。

 「やむを得ずした行為」とは、侵害を回避するために必要最小限度の行為にとどまっている必要がある。もっとも、正当防衛状況は正対不正の関係を規律する者であるから、厳格な法益の権衡までは要求されず、防衛行為によって回避しようとした法益侵害の程度と、防衛行為によって生じた法益侵害の程度を比較して、相当な範囲にとどまっていればなお「やむを得ずした行為」にあたる。

 乙は、Aが甲の顔面に対しこぶしを振り上げている状況に居合わせており、甲が一方的に攻撃を加えられていると認識しており、甲が本件包丁を所持していたことについては認識していないから、甲の生命身体に対する侵害を回避するため、自らがAに暴行を加える必要性が高い状況であったと考えてもやむを得ない面がある。しかし、甲乙Aはいずれも20代の男性として年齢、体格に差はなく、乙が甲に加勢した場合、甲乙対Aの2対1の構図となる。また、乙の行為は、刃体の長さが18cmある本件ナイフという、暴行の対象者の生命身体に著しい危険が生じる恐れがある凶器を用いられているのに加えて、視界の悪い夜の公園において、背後からの予告のない刺突という、Aによる回避が困難な極めて危険な態様で行われている。こうした乙の行為態様を踏まえれば、その刺突が右上腕部という身体の枢要部を外した攻撃であって、生命侵害の危険性が比較的小さい攻撃であることを考慮してもなお、侵害を避けるために必要最小限度の行為にとどまっているものと評価することは困難といえる。よって、「やむを得ずした行為」とはいえないから、乙の行為に誤想防衛は成立しない。

 ⑸ 以上から、乙にはAに対する傷害罪が成立する。もっとも、誤想防衛については行為の相当性以外の要件を充足しているから、誤想過剰防衛として36条2項を類推適用し、その刑を任意的に減軽又は免除することができる。

 2, Dに無断で本件原付を発進させた行為

 ⑴ 上記行為はDが所有する「他人の財物」を「窃取」する行為として、窃盗罪が成立しないか。「窃取」とは、占有者の意思に反して「他人の財物」の占有を自己又は第三者の占有下に移転させる行為をいう。ここでの被害者の占有の有無は、当該財物に対する事実的支配、すなわち物理的、心理的な支配が及んでいるか否かで決する。

 Dは自身の宅配業務の遂行のため、マンションの敷地内に立ち入っていたため本件原付を道路脇に停めたままにしている。ここでの駐車は配達のための短時間のものであり、場所的な離隔も短く、Dは配達が完了し次第再度本件原付に乗って業務を再開することを意図していたといえるから、依然としてDは本件原付に対して物理的、心理的な支配を及ぼしていたといえる。したがって、本件原付はDの占有下にあったものと認められる。

 乙は占有者であるDに無断で本件原付に乗って現場を走り去っているから、占有者であるDの意思に反してその占有を自己の下に移転させたといえる、よって、上記行為は「窃取」にあたる。乙はこうした自身の犯罪事実について認識、認容しているから、同罪の故意(38条1項)も認められる。

 ⑵ 不法領得の意思

 毀棄罪等との区別、および窃盗罪の領得罪としての性質上、同罪の成立には①財物の権利者を排除して、②当該財物から何らかの効用を得ようとする意思、いわゆる不法領得の意思を持って窃取行為を行うことが必要である。乙は、本件原付を走行させて現場から離れることで、Dによる本件原付の利用を排除している(①)のみならず、自身がBから逃げ切るため、本件原付が有する走行機能を用いてその場から走り去っているから、本件原付の効用を得る意思で行為に及んだといえる(②)。したがって、乙には不法領得の意思が認められる。

 ⑶ 緊急避難(37条1項)の成否

 乙は、Aから殴る蹴るなどの暴行を加えられることを避けるため上記行為に及んでいるから、緊急避難の成立によって窃盗罪の違法性が阻却される。「現在の危難」が生じているといえるからである。よって乙には窃盗罪が成立しない。

3, 以上から、乙にはAに対する傷害罪のみが成立する。

以上

 

3,採点実感を踏まえた実感

余裕があれば(ありますか?)追記します。